Jam 2023年1月号
世界中が震撼した クワトロ・ショック わたしは、三重県志摩半島 の英虞湾のそばの半農半漁の 家に生まれました。地元の農 協、漁協の組合員でもありま す。だから、生産者の一人とし て、現在の状況を大変危惧し ています。食料安全保障の危 機がきています。食料自給率 の低い日本にモノが入らなく なってきているのです。 この危機をわたしは「クワ トロ・ショック」 (4重の危機) と呼んでいます。1つ目は新 型コロナ禍で物流が止まって、 まだ回復していないこと。2 つ目は、中国の食料需要が増 えて爆買いと言われる状態に よる、食料価格の高騰。3つ目 は、異常気象が通常気象になっ てしまい、どんどん不作が起 こっていること。4つ目は、ウ クライナ紛争。これがトドメ を刺しました。 こういう状況を見て、イン ドなんかは、世界2位の小麦 の生産量があるにもかかわら ず、もう売っている場合じゃ ないと自国民を守るために 命を守れないということです。 それをどうするのかを議論し なければいけません。 世界でもっとも 命が脆弱な国・日本 令和 17年の食料自給率を試 算すると、本当に低い数字が 並びます(上の表)。現在の野 菜の国産率は約 80%でがん ばっているように見えますが、 野菜の種の9割は外国の畑で 採ったもを運んでいるので、 これが止まったら8%しかつ くれないということ。鶏の卵 の自給率が 97%だと言っても、 エサのトウモロコシは100 % 輸入です。 そして先ほど触た肥料の 問題もあります。令和5年か ら本当に化学肥料が農家さん に供給できなくなるかもしれ ない。そうなると農産物の生 産量は半減しますよ。 日本の食料自率 37%は大 変低いと言われていますが、 現実はもっともっと低とい うことを我々は認識しなくて はなりません。ウクライナ紛 争みたいなことが別の場所で も起こったら、日本人は本当 に餓死してしまいますよ。 これは冗談じゃなくて、ア メリカの大学が計算して実際 に数字として出てきいるん です。核戦争が起こったらど うなるかという計算をしてい て、一番軽微な核戦争で被曝 による死者が世界で2700 万人。さらに物流が止まるこ とによる2年後の餓死者が2 億5000万人出るそうです。 その3割が日本人。つまり日 本人の6割が餓死してしまう んです。 米露の核戦争になれば、日 本人は核で死ぬではなくて、 物流が止まることによって、 全員が餓死するというデータ も示されています。だから、 もっと食料の国内生産をがん ばって、自給力を上げなくて はならないのです。 農家を支えることが 安全保障につがる しかし、現在の状況で農家 に生産をがんばってくれとも 言いくい。令和4年に少し コメの値段は上がりましたが、 と言っていたところに、日本 がカリウムの鉱石を依存して いたロシアとベラルーシが、 敵国の日本には売ってやらな いと言い始めた。これでどう なったかと言うと、輸入量が 半減して価格が倍になったわ けです。高くて買えないどこ ろか、製造中止になった配合 肥料も出てきています。 中国はものすごい勢いで食 料の輸入を増やしています。 大豆は1億トン輸入してい るんですね。日本大豆の消 費量の 94%を輸入に頼ってい ますが、それでも年間300 輸出を止めると言っている。 そんな国が二十数か国にの ぼっています。 日本はウクライナから小麦 を買っていないから大丈夫だ なんて言う人は能天気ですよ ね。日本が小麦を買っている アメリカに需要が集中して、 日本が買い負けいる状況に あることをわかっていない。 いま、一番深刻なのは生産 資材。特に輸入に100%頼っ ている化学肥料です。一昨年 から、需要が激増したのでリ ンや尿素を売ってやらないと 中国が言い始めて、困った で生産するコストを負担しな くてはならない。食料国内 でがんばってつくってくれて いる農家を支えること自体が 安全保障なのです。 農家がこれ以上苦しくなる と、国民は食べるものがなく なってしまうかもしれない。 そのような事態を招かぬよう に、わたしたち になにが できるか、にをやるのかが、 いま問われています。 日本の低自給率は アメリカが原因? 食生活が洋風化して、国内 の農地だけでは食料をつくり きれなくなったから日本の自 給率が低下したとよく言われ ますが、それは誤解です。現象 的にはそうかもしれませんが、 では、なぜ食生活が変わった のか。それはアメリカの政策 が原因です。アメリカの農産 物を日本に買わせるために、 貿易自由化を進め、コメでは なくて小麦を食べなさいと洗 脳するようなことまでやりま した。コメを食べるとバカに なるというような本を慶應義 策をおこなうと、アメリカは、 日本が自分たちの海外市場を 奪おうとしていると思うかも しれない。日本政府は、それに よってアメリカの逆鱗に触れ ることを恐れているのです。 また、コメや乳製品の在庫 が増えていると言うならば、 輸入を調整すればいいでしょ う。しかし、政府は最低輸入義 務などと言って、こんな状況 でも輸入し続けています。必 ず輸入しろなどという国際的 な約束はないのに、アメリカ の怒りを買うのを恐れて輸入 塾大学医学部教授の方に書い てもらい、大手メディアもこ ぞってこれを煽った。 極め付けは学校給食です。 日本の食生活改善という名目 で、アメリカ産小麦でつくっ たパンと、アメリカ産の脱脂 粉乳を給食に導入しました。 その結果、戦後の短い期間に 日本の伝統的な食文化は一変 しました。世界でもそんな国 はほかにないそうです。 日本政府が、農業への援助 政策ができないのも、アメリ カに理由あります。援助政 こなっていたので、外国から モノが入ってきませんでした。 現在も徐々にそうなりつつあ りますね。江戸時代の人たち がどうしたかというと、国内 にある資源を利用して循環型 社会を築き上げたのです。彼 らはさまざまな工夫を凝らし て再生可能な植物 最大 限活用したのです。 この循環農法には、当時の ヨーロッパ人も驚愕しした。 肥料学の大家として名高いド イツ人のリービッヒも、江戸 循環農法について高い評価を 与えています。 江戸時代とまったく同じこ とを現代においておこなうこ とはできませんが、この物質 循環という考え方をいかに取 り入れていくのかは、今後の 農業を考えるうえで、非常に 重要です。我々日本人には、世 界に誇るべき実績があるわけ ですから、それしっかりと 認識したいですね。 万トンです。中国の端数にも ならない。こうなると相当高 いお金を払わないと日本にモ ノが入って来なくります。 食料の需給は逼迫の度を強 めていて、輸入は不安定になっ ている。それなのに日本政府 は、食料はお金を出して輸入 すればいいんだなんて議論を まだやっている。国内の食料 生産をどうやっ確保するの かという議論がまったく出て こない。い突きつけられて いる現実は、食料も種も肥料 もエサも海外に依存していた ら、いざというときに国民の を量産してもらって、国内、そ して海外の飢餓人口を救える ようにがんばる。そのために 財政出動するという政策をと ればいいんでよ。そうすれ ば、食料危機にも備えられる のですが、全然そんな話には なりません。 このままだと農家のみなさ んがますます苦しくなって、 半年間で3、4割の農家が廃 業するという予測も出ていま す。これで中国と台湾の戦争 にでもなれば、あっと言う間 に日本人は餓死してしまいま す。だから決して農家に限っ た問題ではなくて、日本人が 自分たちの命をどう守るかと いう問題なのです。 有事や不測の事態に国民の 命を守ることが国防だと言う ならば、食料や農業を守るこ とこそが国防です。 「日本で生産するコストは高 いから輸入が基本」と言う人 もいますが、モノ海外から 入ってこなくなると、国民の 命が危なくなる。それは計り 知れないコストです。だから、 消費者も、国内産の野菜が少々 高く思えても、購入して国内 コメの生産コストは平均で1 俵1万5000円で、農家の 手取り収入は、900円で す。コメの価格が多少上がっ ても大赤字は変わらない。農 家の方の生産コストがいくら 上がっても、価格低いまま なのは、やはりおかしい。だか ら政府だけじゃなくて、消費 者も小売店も製造業者も流通 関係者も、みんなでどうする のかということを考えなけれ ばなりません。 それなのに、政府は「コメが 余っている、牛乳も余ってい る。だからコメをつくるな。牛 乳をしぼるな」なんてことし か言わない。ほかの国のよう に、「コメや農産物をもっとつ くってください、政府が買い 取って困っている消費者に届 けます」という政策をやれば いいのに。 すでに我々は有事に突入し ているのです。いつモノが入 らなくなるかわからない。そ んなときに、大局的な判断が できずに、「コメをつくるな、 牛乳をしぼるな」どと言っ ているのは、危機感が欠如し ています。もっともっと食料 農家が安全・安心な野菜を育 てて、消費者がその野菜を食 べることで農業を支えるので す。子供たちが食べる学校給 食は、この仕組みの大きな出 口の一つになでしょう。 このような仕組みをつくれ れば、アメリカの思惑だろう が、グローバル企業の思惑だ ろうが、そんなもは排除し て、自分たちの力で自分たち の命を守るような地域の運動 が生まれます。その核にる のが協同組合です。 「いまだけ、金だけ、自分だ け」の発想で暴走する大企業 や、それに取り込まれてしまっ ている政治・行政だと、なか なかうまく動けません。 みんなを救えるのは、市民 組織や協同組合といった共同 体です。共生、つり「共に生 きる」ことを目的とした仕組 みが機能することによって、 人々を守る核ができる。その ために、みんなでアイディア を出し合って、行動に移して いければいいですね。 未来の日本農業のヒントは、 江戸時代の循環農法ありま す。江 は鎖国政策をお し続けているわけです。 子供たちを守り 地域の食と農を守る アメリカの日本に対する食 料政策はまだ終わっていませ ん。いま注目すべきなのはゲノ ム編集( ※ )されたトマトです。 それを日本に浸透させるため に、令和5年からゲノム編集済 みのトマトの種を小学校に無 償配布して、子供たちに育てさ せ、学校や家庭で食べさせよう としています。安全性も確認で きていないものを、日本の子供 たちを実験台にして広めよう としている。その利益として グローバル種子・農薬企業に 莫大な特許料が入る仕組みに なっています。 わたしたちは子供を守らな ければなりません。子たち を守ることは、日本の未来を 守ることです。そのめには、 学校給食を無償化して、有機 野菜など地元のいいものをで きるだけ使って、子供たちに 食べてもらう仕組みつくる のも有効です。地域で野菜の いい種を守り、それを使って Jam 2023 January 教授 ● PROFILE 三重県出身。東京大学農学部卒業 後、農林水産省に入省。農業総合研 究所研究交流科長、九州大学大学 院農学研究院教授などを経て、平成 18年より東京大学教授。専門は農 業経済学、国際貿易論。NPO法人 「農の未来ネット」理事長も務める。 鈴木宣弘 東京大学大学院農学生命科学研究科 食・農・くらしを守る食料安全保障 ● 2035年(令和17年)の食料自給率 鈴木教授による試算。最悪のケースを想定 米 野菜 果樹 牛乳・乳製品 牛肉 豚肉 鶏卵 98% 79% 39% 63% 38% 49% 97% 11% 4% 3% 12% 4% 1% 2% 2021年 2035年 06
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