Jam 2024年10月号
農業にはどのような 影響があるのでしょ 近年、労働環境の質の向上 と生産性の向上を目的とした 「働き方改革」が叫ばれてい るのは、皆さんもご存じで しょう。具体的な内容として は、 「労働時間の是正」 「正規・ 非正規の格差解消」「多様で 柔軟な働き方」の3つが挙げ られます。この改革の波は物 流業界にもおよんでいます。 物流は、私たちの生活や経済 活動を支える重要な社会イン フラですが、一方で、労働生産 性の低さ、トラックドライ バーの人材不足や長時間労働 の常態化といった問題が指摘 されてきました。 特に長時間労働は大きな問 題で、厚生労働省の調査によ ると、従来のトラックのドラ イバーの年間労働時間は、全 産業の平均と比べて、およそ 400時間も長いという状況 でした。今年の4月これを 解消するため、トラックドラ イバーの改善基準告示が改正 されました。 これによって、 自動車運転業務の時間外労 働に年960時間上限が設 けられ、月間の拘束時間も【図 1】のように改善しす。 ワー クライフバランスの実現によ り、物流産業が今まで以上に 働きやすい職場となります。 ここまで見てくると、良い こと尽くしのようですが、問 題は、 今回の告示によるトラッ クドライバーの労働時間短縮 が、社会の輸送能力の低下に 直結するということです。 結 果的に、今までのようには円 滑にモノが運べなくなる事態 に直面するかもしれません。 この物流が停滞してまう可 能性そが、いわゆる「物流 の2024年問題」です。 日本政府は、 業者だけ ではなく、生産者から卸業者、 小売業者、私たち消費者にい たるまで、流通に関わる関係 者全員で問題の解決に取り組 むべきだと呼びかけていま す。では、万が一、この問題に 全く対処しなかったら、どん な状況になるのでしょう? 次のページの【図 2】 は、何 もしなかった場合に不足する 輸送力を、 NX 総合研究所が 試算したものです。 今年度は、 4億トン分の輸送能力が不足 すると予想されます。この数 字は、ドライバー 14万人の不 足に相当します。 6年後には さらに状況が悪化し、9億ト ン以上、ドライバー数に換算 すると 34万人の不足が予想さ れます。つまり、今まで通り の物流を継続するためには、 トラックドライバーの増員が 必要なのです。しかし、今回 の労働時間短縮の結果、一部 のドライバーの手取り収入が 減ってしまうのではないかと の懸念もあります。場合に よっては、増員どころか、離 職者の増加を招く恐れも否定 できません。問題の解決は一 筋縄ではいかないようです。 最悪の事態が訪れた場合、 必要な時に必要なもが届か ない、もしくは、輸送自体を 断られてしまうこともある もしれません。 そうなると、 工場などでの生産活動が滞る ことも想定され、日本経済に 大きなダメージを与えます。 もちろん、私たちの日常生 活にも支障が出るでしょう。 今ではすっかり一般的となった 通信販売を例にとって考えて みます。 「物流の2024年問 題」に手を打たなければ、輸 送コストすなわち購入した商 品の料は高騰します。その うえ、商品が手元に届くまで には、今まで以上の時間を要 することが予想されます。 こ のように、「物流の2024年 問題」は、私たちにとっても決 して他人事ではないのです。 「実は農産物の流通は、トラッ クへの依存度が、ほかの産業 に比べても高いのです」 そう教えくれたは、「物 流の2024年問題」を取材 してきた日本農業新聞記者の 小林千哲さんです。 「物流の2024年問題」を放 置した場合に、どの地域でど のくらい輸送能力が不足する のかを示したのが【図 3】 で す。 九州は中国地方に次いで 不足する割合が高くなりま す。また、業界別に見てみる と、農水産物に関連する輸送 能力は、3割以上不足すると されています【図4】。 九州で生産された農林水産 物は、 域内で消費されて いるほか関東や関西といっ た大消費地にも輸送されてい ます。 特に、青果は生産量の 約4割を関東・関西に出荷し ており、トラック輸送への依 存度の高さと併せて考える と、「物流の2024年問題」 が九州の農業へ与える影響の 大きさがわかります。 「2024年は、流業界の持 続可能性を考える契機です。 対策を打たなければ、運送業 者が農産物の長距離輸送から 手を引くかもしれない。そう なると、 九州の農産物を大消 費地に届けることは不可能と なり、九州の農業に大打撃を 与えることになります 」と小 林記者は警鐘を鳴らしま。 では、実際にどんな対策が 講じられているのでしょう? このまま何もしないと… 2024 年度 2030 年度 % 14.2 不足! % 34.1 不足! 億トンが運べない! 億トンが運べない! トラックドライバーの拘束時間上限を 年間3, 300時間とした場合 % 11.4 北海道 % 9.2 東北 % 15.6 関東 % 13.7 中部 % 9.2 四国 % 10.8 北陸信越 % 12.1 近畿 % 20.0 中国 トラックドライバーの拘束時間上限を 年間3,300時間とした場合 地域別 不足する輸送能力 (2019年度データ) 業界別不足する輸送能力 (2019年度データ) 業界 不足する輸送能力の割合 億トン 億トン 不足する輸送能力 04 Jam 2024October 2 の 経済産業省「持続可能な物流の実現に向けた検討会 最終取りまとめ(2023年8月)」より 経済産業省「持続可能な物流の実現に向けた検討会 最終取りまとめ(2023年8月)」より 経済産業省「持続可能な物流の実現に向けた 検討会 最終取りまとめ(2023年8月)」より 4.0 9.4 % 19.1 九州 農産・水産品出荷団体 建設業、建材(製造業) 卸売・小売業、倉庫業 特積み 元請の運送事業者 紙・パルプ(製造業) 飲料・食料品(製造業) 自動車、電気・機械・精密、金属(製造業) 化学製品(製造業) 日用品(製造業) 32.5% 10.1% 9.4% 23.6% 12.7% 12.1% 9.4% 9.2% 7.8% 0.0% 図 2 図3 図4 4.0 9.4
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